第10回 ハンナ・アレント 全体主義の構造
エピソード一覧
【10-1】我々も二重思考をしている?シリーズ1のアイヒマンはどう生まれたの?【全体主義の構造】
【10-2】ナチスドイツにおけるユダヤ人への憎悪はどのように形成されたか?【全体主義の構造】
【10-3】ナチスはユダヤ人への恨みだけで作られたわけではない、そこにはどんな背景があったのか?【全体主義の構造】
【10-4】ナチスに代表される全体主義はなぜ持続するのか?どのような構造を持っているのか?【全体主義の構造】
【10-5】身内ですら疑い合い何も話せない相互監視社会の形成へ【全体主義の構造】
【10-6】合唱コンクールをクラス全員で頑張るのは、全体主義的な運動とみなせるのか?【全体主義の構造】
【10-7】能力による差別は現代でも正当だと思われてるものの一つ?【全体主義の構造】
導入
アイヒマンのより深い考察、どうシステムが作られたか
読んだ本の紹介
アレントへの個人的な興味の背景
小学生の時、おしいれの冒険、アンネ・フランク、ヘレン・ケラーが好きだった
中学生 大学生で夜と霧を読んだ
ナチスのホロコーストの話を昔から知ってたからこそ、こんなことをする極悪人がいたのか、と思っていたからこそ、ハンナアレントのアイヒマンに対する見解を見て、驚愕した覚えがある。
全体の流れ
反ユダヤ主義の起源
どのようにしてユダヤ人に対する憎悪が生まれていったか
大衆の登場
思考をしない人間たちがどう生まれたか
全体主義の構造
全体主義はどのような生態で成り立っているか
全体主義が破壊するもの
全体主義が人間が拠り所する場所を奪い、判断力を削ぐ
それに抗うためには行為が重要である
抵抗の拠り所としての事実
全体主義の中での事実と陰謀の関係性
事実の真理を守り抜く
拠り所としての事実を守ることの重要性とそれを担う場所
おわりに 希望を語り継ぐこと
自由に思考し行為を行い、それらを語り継いでいく
ユダヤ人への憎悪の形成
金融においてユダヤ人に対する嫌悪を抱く土台があった
帝国主義が国民国家を解体し、階級から脱落した人々が出現
その人々が憎悪を向ける対象が必要であり、それがユダヤ人であった
反ユダヤ主義の起源
ユダヤ人の特徴
国民国家を構成する階級や階層の中に入ってないアウトサイダー
国家間を仲介する金融業者として発展していった
ロスチャイルド家を中心とするユダヤ人金融業者たちは国家の資金調達、戦争のための軍資金の提供から、賠償金の手配などを通じて富を獲得していた
国家は逆に繋がっているためにネットワークによる情報をもらっていたので、ある種国家のアドバイザー的な感じになっていた
国家や経済を背後で支配するユダヤ人というイメージ
ロスチャイルド家に特権化されていた国家の安定的な金融・資金調達のシステムが、緩んだことにより、さまざまな政治的腐敗が表面化したことで形成された
経緯
1894年に、ドイツに統合された地域の出身で、フランスの参謀本部のユダヤ人だったアルフレッド・ドレフュスが、ドイツのスパイとして逮捕され、終身流刑を受けた のちに冤罪であることが発覚し、のちに首相となるクレマンソーが最新要求を支持して運動が始まり、国論が二分化された 王党派と共和派の対立
中産階級や労働者が共和派で、ドレフュスを支持
内戦になるところまでいかずに、これはそういう対立だよね、っていうので収束した、ということなのかな
この王政と共和制の対立の構造は、フランス革命やその後の流れ以来の構図を明確に示した
アレントは、伝統的なキリスト教によるユダヤ人差別と、ナチスによるユダヤ人の殲滅をするようなものとは区別している 政治的支配への野心を持たずに、経済的優位を獲得した歴史上最初の階級
基本的には政治的決定は国家に委ねていたが、国家の制約が資本主義経済の発展(自分たちの利益拡大)にとって障害になると、国民国家の枠組みを乗り越えようとし始める そういう意味では、帝国主義はブルジョアジーの政治的開放だった
ブルジョアジーがいる状態で、帝国主義を推し進めることが国民国家の解体を招く
力で圧倒して、植民地から搾取して差別や格差の拡大をしていく、という構図を国内にももたらす
グローバルな資本主義のもとでは、誰もが平等に富を得ることができる、それは外国人にとっても開かれている
そのため確実に負けて脱落するものが出てくる。そうなったときに恨む対象は特権階級だけではなく、外国人の流入者にも向けられる
その意味で、外国人に対する排斥は、異文化や異民族に対する差別意識や、対外的・軍事的な緊張がもたらすナショナリズムだけに原因があるのではなく、資本主義のグローバルな展開とそれによって生じている富の集中と貧困の格差の拡大も影響している
こうして、帝国主義は国民国家の基盤であった階級・階層を解体する
全体主義の運動を扇動したモブ
国民国家の解体から全体主義運動へ
階級・階層集団から脱落したモブ(群集)が、19世紀末から出現する反ユダヤ主義運動の基盤となり、第一次世界大戦の従軍経験から社会復帰できなくなった大量の分子と共に、ナチズムやファシズムの担い手となる モブは明らかに現体制への不満を抱えていたが、その後の運動に動員された大衆の多くは普通の人々であった
唯一普通でなかったのは、自分自身にさえ関心を持たないということ(こっちは大衆の話のところで説明する)
国民国家を構成する階級の解体は一人一人をバラバラにした
職業などの集団から切り離されることで、お互いに関心を持たなくなる
誰からも配慮されず気を配られなくなると、やがて自分自身に対する関心もなくなる
そのように、無関係で無関心な人間の集合を大衆と呼んだ お互いのことを知らないし、関心を持たない
満員電車や都会の雑踏の日常もそれに近いかもしれないね
モブの動機
全体主義の中核となる存在は、現体制や社会に対する不満を抱えているモブだった
モブにとっては戦争体験は以前の社会や伝統からの開放と捉えていた人もいた
ナチズムやファシズム運動の指導者の多くは、相違した対戦によって生み出されたモブから構成される エリートの背景
エリートそうとは、知識人や文化人のこと
彼らを惹きつけたのは、特定の目的ではなく、運動そのもの、行動やそれに伴う破壊それ自体に意味を見出すという行動主義だった
戦争による実際的な破壊行為が、が19世紀末に蔓延していたニヒリズムに対するリアリティを与えていたことも影響している 全体主義自体も非常に行動主義的である
そもそも、特定の政策目標を重視しない。ヒトラーやスターリンも党の政策プログラムの議論は棚上げにしていた しかし、エリートは徐々に邪魔な存在になり排除される
そもそも忠誠心が大事であり、元々あった階級の区別は解体している世界
破壊を目指す文化人にとっては、犯罪的な行為や暴力などは勇気ある行動や新しい生活態度として憧れていた
しかし、高尚な思想はヒトラーたちからしたら邪魔で不要で、むしろ理解できないので危険分子と看做されて、運動が権力を握った後は排除される
全体主義に巻き込まれる大衆
世界のリアリティの喪失により大衆が運動に巻き込まれる
人々は日々の暮らしの経験を通じて、自分の位置を確かめながら生きている
しかし、他者との関わりを分断された社会では、帰属している集団の伝統などが暗黙的に示してくれていた指針を失う
それが、世界のリアリティの喪失である
信じられるのは一貫しているものだけ
目に見えるものも信じず、自分自身の経験も信じなくない。現実で起きていることは何も信じられず、想像力のみを信じるようになる
その時に重要なのは、一貫であるかどうか、一貫していれさえすれば一定事実でなくても構わない
これは、結局現実のものは変更されてしまうんだから、それが本当かどうかもわからない、という前提なのだとすると、真実かどうかよりも、頼っていたものが変わってしまわないかどうか、の方が重要になる
これは階級の解体が生み出した
階級社会が解体したことで足場を崩された人々は、自分の経験すら信じることができない
また、物理的には近くにいても、互いに無関係・無関心であるため、お互いで共通の世界を作ることができない
自分が誰かと共通の世界を共有していなければ、自分自身の体験だけを信じることはできなくて、結局誰も何も信じられなくなる
全体主義はそうして孤立した個人に一貫した説明を与えて扇動する 別に大衆は愚かでバカだったわけではない、むしろ想像力があるからこそ、一貫して信じられるものを求めていたのだ
つまり、大衆が現実世界のリアリティを経験によって取り戻すことができなければ、全体主義の誘惑に絡め取られてしまう 全体主義の特徴は、イデオロギーの内容ではなく、孤立した個人を巻きんでいく運動それ自体 イデオロギーの内容は、ナチスの人種理論もスターリンの階級理論も、説明自体に斬新さはなく、歴史や社会の進化による説明の構図を借りてきただけ。 むしろ、大きな特徴は、孤立した個人をうまく扇動していく運動それ自体である
全体主義はいかにして続くか
全体主義の組織構造
暴政や権威主義体制と混同されるが、じつはそれらの構造を破壊する運動という特徴を持っている 権威主義体制は、権威の担い手を頂点として、ピラミッド構造になっている
暴政や専制支配は、1人の支配者に服従し、その中での優劣はほぼない 全体主義は明確な構造を持たず、それらの構造自体を破壊する
https://gyazo.com/d9e10a8036556cfccb5f26058ab6bd60
中心に向かって構成員を強く巻き込んでいく、という性質を持っている。ロールケーキ型。
虚構と軽蔑によるヒエラルキーによって、人々は優位を感じてそれを維持するために従う
多様な組織や、集団、例えば支持者と党員、幹部などの間に軽蔑によるヒエラルキーを生じさせることで、内部に強固な虚構の世界を作り上げられる
支持者はヒトラーの海外に対する交友的な演説を支持するが、党員は嘘であることを知っていた。そういう情報量の差によりヒエラルキーを作り出していた
そして、対外的な宣伝を信じない党員はイデオロギーによる一貫性を信じていた
イデオロギーベースの虚構の世界によって、人々は闘争を信じる
ユダヤ人など対立する敵との闘争が生じた時、その大小にかかわらず、その理由を一貫して説明してされるのがイデオロギー
これをヒエラルキーの中心に虚構の世界を作り出すことで実現する
もちろん現実と虚構の世界の間には確実に乖離がある。しかし、それらを区別する能力を根絶することが、全体主義におけるエリート教育の主たる目的になっている
どういう教育になってるんだろう?
1984年を参考にするなら、教育ではなくて、それができないものを排除したり、中核に入れないだけ。 運動がダイナミズムをなくし、つまり停滞することで、虚構のリアリティを生み出せなくなると、全体主義は崩壊し始める
おそらく、虚構と現実のギャップを埋めるために、現実を歪曲しそれを全員が信じる、という行為ができなくなると、という意味。
運動の中心にいる指導者は、外と虚構の二つの世界を体現することで、虚構であるとわかっていても安心できる
運動の内側に行けば行くほど、外界の思想とは切り離されるわけだが、指導者だけは運動を代表して外界とも接する。
そこの安心感はあるのかもな、そしてその指導者が外界の世界とうまく渡りあったり、説得したりしてるので
指導者がいなくなることは、他の体制よりも圧倒的に大きい影響を持つ
虐殺への発展
テロル、潜在的な敵も含めた内なる敵の排除がはじまる これは全体主義のテロルの特徴
最初は敵の内通者の摘発などからスタートするが、それがあらかた終わると、客観的な基準から見て潜在的な危険分子と判断された人間の排除が行われる
状況に応じで新しい潜在的な敵を設定し、闘争を再現なくつづける
敵の設定ロジックはその当時は優生学という科学に立脚していた部分もある しかし、根拠の正確性という観点で言えば、曖昧であり、任意に基準を変更することができた。
そのため、容疑者の可能性として浮上するのは全人口だった
そうなると、もう恐怖すら感じることはほとんどない。その時々の刺激に反応するパブロフの犬になり、その後なんの刺激にも反応しなくなる。 その意味では、収容所にいた人間は生ける屍であり、収容所は死体製造工場ですらなかったかもしれない
毒ガス兵器はユダヤ人への憎悪に対して、という話ではない、ということからも誰でも対象になる可能性を秘めていたことがわかる
毒ガスという殺戮兵器はユダヤ人虐殺のために作られたわけではなく、慢性的・末期的な病人に対する安楽死の方法として準備されたものだった
10度の障害を持つ児童や精神障害者などを対象として安楽死措置を進めた
これ以上生きていても仕方のないような病人は、速やかに死をむかえさせてあげるのが本人の多mである
1941年8月までにおよそ7万人が犠牲になった
最初は銃殺による大量処刑が行われていたが、手間がかかるのと、射殺する隊員がわの精神的な負担が大きかった。そのため人道的な手段として毒ガスが使われた
この大量殺戮兵器はユダヤ人のために開発されたわけではない、ということは、これはユダヤ人に対する憎悪で生み出されたわけではない、ということであり、つまり、大量虐殺へと導く全体主義のテロルは、個別の人間集団に対する憎悪をはるかに超えて存在している
生命の選択に現在の科学技術が届こうとしてる状況では生きるに値する生とは何か?を考えなければならず、ナチスと違った答えが求められる。
秘密警察は潜在的な危険分子を炙り出すために、脅迫や買収、スパイなどを利用した調査など、表立って言えない方法を用いていた。
しかし、全体主義社会では秘密警察が公然たる秘密となり、社会に浸透していく。
そこでは、自分の真実を証明するために、他人を告発しなければならなかった。
そうして、全ての会話や行動を相互に監視し密告しあう、地獄の社会が生まれる。中央集権的な監査よりもこっちの方が圧倒的に怖い。
今日のインターネットやSNSはそうした場所になりつつある。というかテクノロジーでそれを実現できる。そういう土壌ができている。
寿司ぺろ事件に見たあのSNSのムーブメントは、本当にそのような社会の到来を示唆するものだったと思う。 請求が取り下げられて本当によかった、と思っている、なんか個人的には大きな決定な気がした
ここら辺の話がアンネフランクで語られている内容
感想
1984年を見ると、全体主義が全てを支配する世界を見ることができる
アレントのいうことがめちゃくちゃわかる